真っ白な世界 ー考察ー
3月も下旬に差し掛かった頃だが、
今日は朝から雪が降っていた。
バイト終わりには雨になってしまったが。
僕が都内に住んで3年、
3月に雪が降るのは珍しい気がする。
冬には降り積もる雪に毎度辟易としながら雪掻きをしているそうだ。
そんな嫌気がさすほど真っ白な雪景色が、この曲ではなんとも情景豊かに描写される。
ひろむに見えている景色はこの楽曲に色濃く映っているのではないか、と思う。
ーーーーー
朝 目が覚めたら 雪が降っていて
曇った窓こすって しばらく見ていたよ
あなたの居ない世界は 寒くて嫌いだな
子供みたいに愚痴って 僕は家を出る
ーーーーー
朝目を覚ました時、雪が降っていたらどう思うだろう。
小さい頃の僕だったら、非日常間に胸を踊らせていたが、
この歳になって、これからこの雪の中、仕事だ、大学だ、
寒さで布団から出るのすら億劫だ、と一日の憂鬱を感じてしまうものだ。
この曲では加えて「あなたのいない世界は」と描写されることから
恋人であれ、家族であれ、友人であれ、
誰か大切な人が目の前からいなくなった後の話だと推測できる。
窓が曇っている。
真っ白な雪景色に似て、どこかこの別れは現実味を帯びていない。
大切な人を失うと、心まで冷える。
追い打ちをかけるような雪の日の刺すような寒さが妙に痛い。
このやりようのない気持ちを雪景色に愚痴る様はまるで子供のようだ。
ーーーーー
変わらない日々に 何を願って 僕等は生きている?
ありふれた事だね きっと
ーーーーー
長い目で見れば、僕らの日々は常に変化し続けているとは思う。
だが、苦しい時ほど時間はゆっくり遅く感じるし、
状況がよくなる兆しもなかなか見出せない。
苦しい日々が苦しいまま止まってしまったかのようだ。
そんな中で、僕らは何を糧に、この人生を生きているのか。
何を求め、何を望んで、何を願って、生きているのか。
答えはきっと、そんなにたいそうなことじゃない。
きっと、身の回りにある、ありふれたことなのかもしれない。
ーーーーー
積もる 積もる 白い雪 全部真っ白に染めてよ 明日の景色さえも 変えてくれよ
ーーーーー
短いサビ。
真っ白な雪景色に願う。
その白さで、今日までの全てを真っ白に消してくれたらいいのに。
そうしたら、思い出に縛られることもない。
明日も変わらずくる、この苦しい日々も、この雪景色のように描き変えてくれよ。
そうしたら、また一からやり直せる。
ーーーーー
決して終わらないと 思ってた事が
気付いたら終わって いたりするからさ
持て余した情熱も 傍にあった笑顔も
もっと大切に しなきゃいけなかった
ーーーーー
君との関係性とか、
僕が追いかけている夢とか、
多分、これから一生変わることのない、終わることのない、
そう思い込んでいたことが、
どういうわけか気が付いた頃には終わりを迎えてる。
あの時、自分の中で持て余していた情熱も
当たり前に側にあった君の笑顔も
今となっては触れることすらできない。
あの時、終わりが来るとわかっていたのなら
もっともっとそれらを大切にしていたのに。
大切にするべきだったのに。
ーーーーー
昨日も過去も無いよ 積み重なった今を疑ったりしないで
僕はここにいるよ 確かに
ーーーーー
今、この瞬間に、昨日の出来事を、過去の事実を変えることはできない。
こうすればよかった、とか、こうすべきだったとか、
後悔をしたところでそれらが変わるわけじゃない。
後悔するってことは、それらの積み重ねでできた今この時を疑うことと同義だ。
今、僕はここに、この場所にいる。
積み重なった、過去の続きに、確かに、間違いなく僕はいるんだ。
だから後悔なんてしないで。
ーーーーー
積もる 積もる 白い雪 全部真っ白に染めてよ ばかなこの僕に 降り積もれよ
ーーーーー
真っ白な雪景色に願う。
此の期に及んで自分の存在を疑ってしまうような、
ばかな僕を許してほしい。
その白さで、僕の後悔をかき消してほしい。
ーーーーー
朝 目が覚めたら 僕は泣いていて
腫れた目をこすって しばらく考えたよ
あなたのいない世界で どこへ行けばいい?
それでも行くんだよ どこかへ行くんだよ
ーーーーー
朝目が覚めて、
ようやく僕は泣いた。
大切な人がいなくなった今この時を受け入れたから、
疑うことをやめたから。
これは現実なんだと、思い知ったから。
そうしてようやく僕は考える。
あなたがいなくなった今、僕はどこへ向かうべきなのか。
正直、考えてもわからない。
それでもわかっていることが一つだけ、
僕はここじゃない、どこか別の場所に行くんだ。
あなたと過ごした過去の日々じゃない、新しい未来に。
ーーーーー
積もる 積もる 白い雪 全部真っ白に染めてよ こんな涙さえも 凍らせてよ
積もる 積もる 白い雪 全部真っ白に染めてよ 今日から全てを やり直すため
真っ白な雪景色に願う。
別れに伴う悲しみは、本当は味わいたくなんかない。
景色を凍りつかせるように、この悲しみも凍りつかせてくれたらいいのに。
真っ白な雪景色に願う。
景色を真っ白に染めるんなら、いっその事、全てを真っ白に染めてくれよ。
白紙のノートに新しい線を描くように、また一からやり直すから。
〜おしまい〜
amazarashiは割と現実主義なバンドだと思う。
現実をありのまま見つめて、描写して、
受け入れたり、時に抗う、そういう歌が多いと思う。
しかし一転してこの曲は非常に幻想的である。
メロディも詩の世界観もどこか現実味を帯びていない。
そして、実はそれが歌詞の深みを出している。
1番と2番のサビ手前まで、
歌詞の中に出てくる「僕」は、
大切な人との別れに対して、どこか実感が湧いていないように見える。
曇った窓をこすってぼんやり雪景色を眺める様子や、
終わらないと思った事が終わってしまったことに対する戸惑い、後悔する様子、
現実を受け入れられていない状態にも見える。
しかし2番のサビでようやくこれは現実なんだと悟る。
これが現実だと悟って、ようやく涙が出る。
悲しみを受け入れる。
悲しみを受け入れた事で、ようやく新しい一歩を踏み出せる。
そんな物語になっている。
考察しながら、僕はものすごく既視感を覚えたが、
悲しみを受け入れた上で、這い上がろうとするその姿は、他の楽曲でもよく目にする。
amazarashiの楽曲は表現方法が変わっても常に根本は変わらない。
それでいてこれだけたくさんの楽曲を生み出しているのは、
やはりアーティストの才能だろうと思う。
さて、対の詩も見ていこう。
ーーーーー
ーーーーー
amazarashiがまだインディーズだった頃の話だろうか。
どこか強がりで、孤独な寂しさを纏っている。
この詩に関してはあまり深く突っ込みすぎると無粋な気がするので、
詩の雰囲気を壊さない程度に解釈を広げようと思う。
雪の降る日、青森駅へと路上ライブに向かう。
きっと当時のひろむ自身にとって変わらない毎日。
終わりの見えない日々。
光の差さない日々。
なんども挫折を、絶望を味わって、
それでもなんとか希望を絞り出して、
開き直ってまで繫ぎ止めるその生活は
気がつけば後戻りもできないところまで来ていて
どこか脅迫めいた、切羽詰まったものを感じる。
彼の歌が届けられる先はどこだろう。
彼は何に向かって歌っているんだろう。
その真っ白な世界の中で。
〜おしまい〜
今回、難しかった。
比喩が多いと、それだけ解釈の幅が広がる。
ただ広げすぎると確信がぼやけてしまうから、
一貫性を持たせる考察にしようとするとなかなか骨が折れる。
自分の文章能力と、考察力、読解力がめちゃくちゃ鍛えられる気がする。
向上しているかは知らない。
今でこそ、情報科学を学ぶバリバリの理系に属する大学生だが、
僕はこういう答えのないことを考えるのが好きなんだと思う。
そもそも理系文系で人を分けて考えることの愚かは説明するまでもないが。
あぁ、気がついたらこんな時間。
考えすぎて夜更かししてしまった。
寒いのでもう寝ます。
明日は晴れるといいな。
0コメント