吐きそうだ ー考察ー



ここいらでamazarashiらしい、棘のある曲を考察していこう。


今回はフルアルバム「世界収束二一一六」から「吐きそうだ」という楽曲を考察していく。

このアルバムはコンセプトが複雑である。

人類はどこに収束していくのか、

それがもし百年後の話だったとしたら、

その中での自分の立ち位置は…

というように、複雑で仮想的なテーマが立ち並ぶ。


「吐きそうだ」という楽曲は

その中でも特に、個人の人生のひとコマに焦点を当てた楽曲である。

が、そのタイトルを見ても不穏なイメージは感じられると思う。


個人的にもどこか実態の掴めないと感じる曲である。

「生きる意味とはなんだ」

というフレーズから始まるが、あえてその確信部分はぼかし、

楽曲としての深みをなお一層掻き立てている。


ひろむ自身もこの楽曲は二日酔いのままに書いた、

とインタビューで話しているのもあり、

ひろむ個人の心の内側が垣間見える楽曲だとも思える。


Key担当の豊川さんのコーラスが綺麗に映える楽曲で、

amazarashiにしては珍しくサビで声を張らない、

などなど少し変化球のような癖のある楽曲だが、耳に馴染むととても聴き心地がいい。


早速歌詞を見ていこう。



ーーーーー

生きる意味とは何だ 寝起き一杯のコーヒーくらいのもんか 

それとも酔いどれの千夜一夜 ていうか二日酔いでもう吐きそうだ 

ーーーーー


この楽曲に一貫して出てくるフレーズ。

僕らが生きる意味とはなんなのか、どれくらいの意味があるのか。

寝起きに目覚ましに飲む一杯のコーヒーくらいのものなのか、

それとも酒で酔っ払いすぎて飛ばした夜の記憶ほどのものか。


だが今はそんなことがどうでも良くなるくらいに、気持ちが悪い。

昨日の二日酔いで吐きそうだ。


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新しい家に引っ越した とは言っても西日とは未だ友人だ 

安心とは縁遠い暮らしの最中で どっち付かずの夢想家 

思い出す景色おぼろに 白黒写真みたいなあの日々

 何度も僕は僕を殺し 血まみれの僕 未だ在住 心に

 夜窓に不意に映るそいつは さながら亡霊か 恨めしそうな目だ

 「いつでもこっちに戻って来なよ」 踏みとどまるのはいつだってギリギリだ

ーーーーー


新しい家に引っ越しても心機一転とはいかず、僕の中身は僕のまま。

生活は未だに安定しないし、夢ばかりに目がいきすぎて

やることなすこと、結局どっちつかずになっていることばかり積み重なる。


青春と呼べる時代もあった、涙で枕を濡らす日々もあった。

だが今になってはどれもこれも白黒写真のように鮮やかさは遠のいていった。


あの日々を思い出すと苦しくなって、僕自身を殺したくなるほどだ。

だが結局それも頭の中で止まって、心の中の僕は傷だらけのままそこに突っ立っている。


夜中に脳裏に不意に顔を出す傷だらけの僕は、

まるで亡霊のような出で立ちで恨めしそうな目をこちらに向ける。

「いつでもこっちに戻ってきなよ」

耳元で囁くその声に、見失いそうになる希望。

こうなると僕はいつも酒を飲んではギリギリで踏みとどまるしかなくなる。


ーーーーー

 自分の価値観を自分で言い負かし そいつをまた否定する言葉遊び 

建前を一人ずつ剥がせば 頭の中すっかり嫌な奴 

そりゃそうだ一糸纏わぬ人間は そもそも獣とさほど変わらない 

つまり犯人は僕自身なのだ っていうのはもう何度目のオチだ? 

ーーーーー


自分の頭の中の価値観を、自分の言葉で言い負かしては、

それでも諦めきれずまたそいつを否定する。

まるで言葉遊びだ。


確信をぼかすための建前を一つずつ剥がしていくと、

自己欲求にまみれた獣のような自我がだけが残る。

そりゃそうだ、人間だって衣服を脱げば獣とさほど変わらない。


つまり自分を陥れる嫌な奴の正体は結局自分自身なのだ。

っていう言葉遊びのオチはこれでもう何回目だ?


ーーーーー

生きる意味とは何だ 寝起き一杯のコーヒーくらいのもんか 

それとも酔いどれの千夜一夜 ていうか二日酔いでもう吐きそうだ 

ーーーーー


生きる意味とは何だ。


昨日の酔いを覚ますためのコーヒー程度のものだろうか。

それとも言葉遊びで疲弊して、酒で凌いだ一夜の方か。


いずれにせよ、そんなことがどうでも良くなるくらい

二日酔いで吐きそうだ。


ーーーーー

たった一瞬の たった一粒の 閃きが人生を変える 

でもそれを神様みたいに崇めるのは違うと思うんだ 

愚直な自尊心が現実に跪いた 口をつく恨み節 確かによく切れたな 

閃きには今も感謝するが 怠惰の言い訳になり得たのも然りだ 

ーーーーー


どんなに努力しても報われないことがある一方で、

たったひとつの閃きだけで人生が変わる事もある。

でもそれを神様みたいに崇めて、

僕の存在があるのはこの閃きのおかげだって言い切ってしまうのは違うと思うんだ。


プライドだけは曲げられずに、突きつけられた現実に足をとられる。

起き上がろうと同時に、口に出てくる恨み節。

つまづいて足を擦ったのと同じ様に、確かにその言葉の切れ味は悪くなかった。


あの閃きには感謝はするが、

その分、自身の怠惰を招いたのも現実だ。

今この屈辱は、閃きが寄越した怠惰が原因に他ならない。

だからあの閃きを神様みたいに崇めたりはしない。


ーーーーー

馬鹿にした奴 見返したいだけじゃ 目立ちたがりや 空虚な愉快犯 

上か下かで競い合うその先に 僕ら生きてる虚しさを恥じて 

群衆の意思の平均像の下敷きに なっているのもどうせ人間だ 

それなら自分が一番可愛いんだと 言ってみせろよこの獣どもが 

ーーーーー


自分をバカにしてきた奴を見返したいってだけじゃ

まるで世間を騒がせて快感に浸る目立ちたがりな愉快犯と何ら変わらない。


上か下かの競争の末に生きてる僕らは、

その無意味に熱くなったことを恥じ入る。


世間一般と呼ばれる得体の知れない意思の下敷きになっているのも

その世間一般を構成する人間自身だ。


思い返してみろ、人間は何ら獣と変わりがない。

本当は自分が一番可愛いんだ、行き着く先は自分自身のためなんだ。

そう言ってみたらいいだろう。

建前まみれじゃ言えないだろうけどな。


ーーーーー

生きる意味とは何だ 寝起き一杯のコーヒーくらいのもんか 

それとも酔いどれの千夜一夜 ていうか二日酔いでもう吐きそうだ 

ーーーーー


生きる意味とは何だ。


混乱する僕を落ち着かせようとする寝起きのコーヒーくらいのもんか、

それとも屈辱に恥じ入った、可哀想な自分を慰めた夜の出来事だろうか。


いや、そんなことどうでもいい、今は二日酔いで吐きそうなんだ。


ーーーーー

埠頭を望むさびれた岸壁 潮風に錆び付いていく命 

と呼ぶのも躊躇う様な暮らし ぶら下げ「それでも」と 未だ のたまい 

所在などなく 行き場所もなく くすぶる魂すら持て余す 

「後悔はない」という後悔を 引きずり重い足を歩かせる 

ーーーーー


埠頭を眺める。

潮風で岸壁も僕の命も錆びていく様だ。

なんて呼ぶのすら戸惑うほどに無残な暮らしの中、

「それでも」って諦め悪く自分に言い聞かせる。


永住できそうな場所も、

かといって行き先も不明なままの人生を持て余す。


あの時ちゃんと後悔しておけばよかった、

なんて後悔しながら失敗を積み重ねながら、僕は今も生きている。


ーーーーー

愚痴は零すな 弱音を吐くな 素晴らしい人間になろうと思うな 

我慢するべきだ 身を粉にして 道に迷っても戻りはするな 

優しく在れ 義理堅く 恩は返せ 借りは作るな 

無償の愛だ 無償の愛か? これこそエゴか? なんて嫌な奴だ 

ーーーーー


自分に言い聞かせる価値観が頭の中を駆け巡る。


「愚痴はこぼすな」「弱音を吐くな」 全部自分に返ってくるぞ。

「素晴らしい人間になろうと思うな」 自分の身の丈を知るべきだ。

「我慢するべきだ」「身を粉にして」 報われなくても努力し続けろ。

「道に迷っても戻りはするな」 常に前を見なければ。

「優しく在れ」「義理堅く」 人に尽くすべきだ。

「恩は返せ」「借りは作るな」 自分を守るために。

「無償の愛を」 人に与えよ。

「無償の愛か?」 結局は全部自分のためじゃないか?

「これこそエゴか?」 あぁ、またこの言葉遊びだ。


自分はなんて、嫌な奴なんだ。


ーーーーー

生きる意味とは何だ 寝起き一杯のコーヒーくらいのもんか 

それとも酔いどれの千夜一夜 ていうか二日酔いでもう吐きそうだ 

ーーーーー


生きる意味とは何だ。


もはや習慣にもなった寝起き一杯のコーヒーくらいのもんか。

それとも毎度の様に投げ出したくなる夜の積み重ねか。


頭の中が混乱している、

また二日酔いで吐きそうだ。


〜おしまい〜



解釈が難しい曲であることは言うまでもないが、

やはり書いていて自分も苦しくなる様な楽曲だ。

夜じゃなくて朝に書いてよかった。


夜中になると、人っていうのはどうしても理性が弱まって感情が強くなる。

その中で感傷的になってしまうことがある人も、それを経験したことがある人も

少なくはないだろう。


その度に毎度、何で生きているんだろう、

生きる意味って何だろうって考えて、自己問答をしていくうちに

頭の中は混乱していく。

自分ってなんて嫌な奴なんだって言葉遊びを繰り返す。


自分で自分を言い負かしていくうちに言い逃れる逃げ道を失った袋小路

あと一歩で自分を失いそうになるのを何とかギリギリで踏みとどまる。


そうやって生きている自分を思うと、

生きる意味っていうのは

酔っ払って踏みとどまる夜とか、

次の日の朝に飲むコーヒーの落ち着きとか、その程度のものなんじゃないか。

実際、それで繋ぎ止めているわけだから。


なんて諦めの悪い僕をありのままに表現した楽曲。

やはり掴み所がないが、考える余韻を残すには十分な歌詞観だと思う。



対の詩も見ていこう。


 ーーーーー 

昨夜の酩酊の狂騒は 

胸やけのえずきに遠き故郷かな 

確信をもって笑った僕らの栄光は 

見るも無残な鈍痛と成り果て 

キッチンの換気扇の下 

人生に腐心する

有象無象の日常だ 

ーーーーー


昨夜の一時の酔い騒ぎは胸焼けと吐き気の中にだけ残っていて、

まるで遠い記憶の中に思い出す故郷の様だな。


あの時の確信めいた僕らの栄光は

今では二日酔いの頭痛に成り果てて

僕はキッチンの換気扇を回しながら

人生の苦悩に頭も心も痛める。


くだらないほどありふれた日常だ。


ーーーーー

生活と世渡りと、もはや夢と呼ぶのも恥じ入るそれが 

面倒にこんがらがって 

あとはプライドとか、自意識とか、 

生活において、奇異な分子が混じり合って 

混濁した頭がどどめ色で 

もはや朝日など、なんの白さもない 

ーーーーー


生活と、その中でうまくやっていくための建前と、

夢と呼ぶにも恥ずかしいほどの希望が

頭の中で面倒にこんがらがる。


そこにプライドとか、自意識とか、

生活を送る上で奇を衒う分子まで混じり合って、

もはや黒ずんで収拾が付かない。


混乱して真っ黒になった頭の中の僕が見る朝日は、その白さも意味をなさない。


ーーーーー

それでも吹き出してしまうような 

遠い僅かな記憶、一つでもあれば 

僕が歩きださなきゃいけない理由の一つになるから 

そんな夜を探す 

ばかな夜を探す

ーーーーー


それでも、不意に笑いが溢れる様な

些細な記憶が一つでもれば、

僕がまた歩き出すには十分な理由になるもんだから世話ないな。

でもそうやって僕は生きている。

そんな夜を今日も探す。

馬鹿げた夜を探す。

そうやって今日も生きていく。


〜おしまい〜



ここまで読んで、やっぱりamazarashiらしいというか、

最後は諦め悪く(いい意味で)生きることを強く望む。


これが言いたいがために、こんなにも長い前置きをするのか、とも思うが、

それだけにこの希望の強さが裏付けされる。


長い目で見れば、直面した失敗や屈辱は大したことないのかもしれない。

それでもその最中にいては、身投げするほどの苦しさを強いられるものだ。

その混乱した自分を、「それでも」捨てずに生きようともがくことはもはや強さだ。


生きる意味なんてわからない、そんなものありはしないのかもしれない。


そうでなくても僕らは生きようといつだって必死なんだ。


特に最近の僕はかなり心にダメージが蓄積されているので

こうやっていい意味で諦め悪く生きようとする姿は

本当に見習いたいというか、

もう、そうするしかないところまで来てる。



改めて、考察することで初めて見えてくること、深められることは本当に多い。

得るものがこんなに多いなんて、考察を始める前は思いもしなかったな。


これからも無理のない範囲で、続けていこう。


さて、今日も一日、頑張って生きます。

頑張るのは、苦手だけど。

諦めは悪いからな俺。

ここじゃない、どこかを探す。

amazarashiの楽曲考察がメインです。 思考の至らない点、過度な深読み、勘違いなどなど 未熟な部分は多いと思いますが、 自分なりに努力して成長していくので 温かい目で見守っていただけると嬉しいです。 気ままに更新していきます。 もし気が向いたら、コメントやメッセージをいただけると一層やる気が出ます。 よろしくお願いします。

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