明日には大人になる君へ ー考察ー


今日はポエトリーリーディングの考察をしていこうと思う。


ポエトリーリーディングとは、音楽に乗せて、詩を朗読するという曲。

歌う、というより、語る、という表現の方が正しいかもしれない。


話し口調に近い形式の楽曲になるため、

表現の幅はぐんと広がるが、

楽曲としての深みの出し方、雰囲気の作り方は

より歌い手の力量によって左右されやすいのではないか、と思う。


amazarashiのアルバム構成の特徴を挙げるとするならば、

曲と曲の繋げ方や一貫性のある全体像の雰囲気作りが非常に優れている。

そこでひと役を買っているのが、ポエトリーリーディングである。

インタールードを持たせる意味合いで、全てのアルバムに必ず一曲は入っている。


今回はミニアルバム「虚無病」に収録されている

ポエトリーリーディング「明日には大人になる君へ」

について考察する。



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明日には大人になる君へ


距離の最小単位を 時間の最小単位を "私"の最小単位を

細切れになった 映画フィルムの一コマのような静謐な場所で

自覚と無自覚の交差する三叉路で

初秋の風が撫ぜる歩道橋で

そこで待ち合わせしよう

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メッセージの届け先は、君だ。

明日には大人になる、君自身だ。


ミクロからマクロまで、距離の測り方は様々だ。

どこまでも拡大縮小のできるこの”距離”の概念を、

その最小単位を明確に定義できるものだろうか。


時間も同様だ。

人の作り出した概念である時間も、刹那なんて言い回しをされるが

その短い時間の最小単位を定義できるものだろうか。


そして”私”とはなんなのか。

どこからどこまでを”私”と呼び、

どこからどこまでが”私”ではない部分なのか。


”私”を定義できる最小単位とはなんなのだろうか。


どれも、考えてもキリがないだろう。


”私”が自覚している”私”だとか”距離”、”時間”と

”私”が自覚していいない”私”、”距離”、”時間”と

その境目とは一体どこだろう。


まるで映画フィルムの一コマのように、

一瞬で、静かで、美しい、

確かに存在するはずのその最小単位と言われる場所で

待ち合わせをしよう。


きっと、その静謐な場所は

例えば、初秋の風の撫ぜる歩道橋だとか、

ありふれた中に存在するのかもしれない。


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明日には大人になる君へ


私は自死を否定しない 私は孤独を否定しない

私は"私"という定義の領分については懐疑的でありたい

社会における境遇と その惰弱な精神を拠り所にした

"私"と呼ぶには未成熟な自意識を

混同したりはしない

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明日には大人になる君へ。


逃げ場もないところまで追い詰められてしまった時、

どうしようもなく、最後の手段として自死を選択する人がいるだろう。

自殺なんかするんじゃない、なんでそんなことするの、

そんな言葉をよく耳にするが、

自死も選択肢の一つだ。

その人が、考えに考え抜いた末に最後に下した決断だ。

私はそれを否定はしない。


辛くて苦しくて、でも頼れる人もいない時、

途方もなく長い夜に、孤独を感じることがあるだろう。

人は人との関わりの中で生きている、孤独な人なんていない、

なんてよく言われるが、

孤独を感じる、そこに嘘偽りはない。

他人の心が覗けないように、自分の心を覗けるのは自分一人しかいない。

私は孤独を否定しない。


そして、私が”私”と呼ぶその定義については、

常に疑いを持ち続けたい。


地位や名誉、肩書き、カーストといった、社会における境遇と

その優劣の中で振り回されるような精神を拠り所としている未成熟な自意識とを

混同しないように。


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明日には大人になる君へ


これから来る人生の屈辱においては

報復を誓うのも無理はないのかもしれない

しかしながらその痛みが 君の尊厳に値するか知るべきだ

金品目的の窃盗犯は 私の書いた詩の一行だって盗めやしない


私はそれを尊厳と呼ぶ

私はそれを尊厳と呼ぶ

私はそれを尊厳と呼ぶ


明日には大人になる君へ

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明日には大人になる君へ。


これからも必ず来るであろう、

人生における絶望的なまでの屈辱の中では

報復を誓うことになるのも無理はないのかもしれない。


しかし、

その屈辱が君に与えた痛みは、君の尊厳を傷つけるほどのものだっただろうか。

君の尊厳が復讐を誓うほどのものだろうか。

それをよく思案するべきだ。


例えば、

金品を目的に私の楽曲を盗んだ人がそれを高値で売りつけたとしても

その窃盗犯は私の書いた詩の一行だって盗めやしないだろう。

技術的な意味合いでも、その歌詞の深みにおいても、

そんな簡単に盗めるほど私の作った楽曲は安いものではない。

窃盗犯の行いは私の尊厳を傷つけるには値しない。


それが尊厳だ。

これこそが尊厳だ。

君の尊厳とはなんだ。

それをよく知るべきだ。


明日には大人になる、君へ。


〜おしまい〜



「この曲は明確にメッセージソングです。

 死にたいと思っている人に、『死ぬな』とは簡単に言えないなと思って、

 それなら自分だったらどんなことが言えるのか、と思って書いた詩です」


とひろむ自身が言っているように、

メッセージ性の強い詩となっている。



この曲を紐解く上でポイントになるのは、

「大人になる」とはどういうことなのか、という点である。


大人、と言われて想像しやすいのは

経済的に独立している、20歳を過ぎる、結婚する、子供を持つ、など

色々な条件が浮かび上がるだろう。


だが、どれも根拠に欠ける話である。

15歳で企業して収入を得る人もいれば、

20歳を過ぎて親元で暮らし続ける人も多い。

結婚しないまま、あるいは子供を持たないまま生涯を終える人もいるだろう。

僕なんかも、生涯子供を持つことはない。


じゃあ、ここでいう「大人になる」とは何なのか。


歌詞を読み解いていくと、

自死、屈辱、報復、というような言葉が印象強い。


あくまで僕の考えだが、

「失敗を積み重ねていくこと」、

これが大人になる、ということだと思う。


人は失敗をすることにより、

学び、

同じ過ちはしないと、自身を律するようになる。


子供の頃は自由奔放に駆け回っていたのが、

歳を重ねるごとに、効率が悪い、危険だ、迷惑だ、と知り、

列を作って、右側通行で、順番を守って歩くようになる。


こうして失敗を重ねる中で、時には

大きな、屈辱的な失敗をすることがあるかもしれない。


それが、落第や不合格であったり、リストラであったり、

信じた人からの裏切りであったり、金銭的なことだったり、様々だろう。


その屈辱の中で自死を思案することがあるかもしれないし、

孤独を感じることも、報復を誓うことだってあるかもしれない。

それを否定することは誰にもできないだろう。


死ぬなとか、早まるなとか、孤独じゃないよ、なんて

軽々しく言えたものではないが、

しかしできることなら、踏みとどまってほしい。


だから、それが君の尊厳に値するかどうか、よく考えるべきだ。

と最後に考えるきっかけを投げかける。


そんなメッセージソングじゃないかと、僕は思う。



少し脱線するが、

この曲の「報復」という言葉を聞いて思い出したことがある。


お酒の席で、古い友人がこぼした言葉だ。


「線路に飛び込む人の気持ちはわかるよ。

 だって社会に揉まれる中で自死に思い至った人なら

 自分の名誉なんてどうでもよくなるくらい

 この社会に少しでも復讐してから、この世を去りたいでしょう」


やはり、この社会を憎い、と思う人は少なくないのかもしれない。

追い込まれると、周りが見えなくなる。

どんどん深みにはまっていく。

屈辱の末の、自死という選択の内に、報復が生まれることもあるのだ。

この曲の「報復」は、それを暗に示しているのかもしれない。


ここまで書いて、

高校時代に自死した友人のことも思い出してしまった。


彼はそれだけ切羽詰まっていたのだろうか。

今の僕だったら、彼にどんな言葉をかけるだろうか。

僕が彼の立場だったら、踏み止まれていただろうか。


僕は彼に言わなければいけないことがあったはずなのに、

なんて今更思ったところでどうしようもない。


まずいまずい、私情でどんどん脱線する。


とりあえず、考察はここまで。



ちなみに、ポエトリーリーディング曲は

基本的に対の詩が存在しない。

(一部例外あり)


なので今日みたいな少し時間の余裕がないときは、

ポエトリーリーディングもちょこちょこ考察していこうと思う。



しかし、思いの外、骨の折れる考察だった。


人の死を語れるほど、

僕は偉くもないし、経験も考えも遠く及ばない。


だからこそ、

せめて言葉選びは慎重にならねばと思ったのだが、

どうだろう。


結局今宵も夜更かしだ。


考察する中で、

僕にとっては重い出来事も思い出してしまったから、

どっと疲れてしまった。


今日はもう寝よう。


せめて、いい夢を見ようと思う。

ここじゃない、どこかを探す。

amazarashiの楽曲考察がメインです。 思考の至らない点、過度な深読み、勘違いなどなど 未熟な部分は多いと思いますが、 自分なりに努力して成長していくので 温かい目で見守っていただけると嬉しいです。 気ままに更新していきます。 もし気が向いたら、コメントやメッセージをいただけると一層やる気が出ます。 よろしくお願いします。

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